紅月ノイズ

一次創作小説サイト。必読を必ず目を通してください。旧名:天宮朱織

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経験したい

オリジナル作品◆SS

人生は経験することで積み重なっていく。経験は重要なことだ。
子供は母親からの反応を重ねていくことで母親と言う一番近い存在とのコミュニケーションを学ぶ。そういう風に、経験することで人は人との学び方を接していくのだ。だからこそ、経験することがすべて。私の人生は「経験」を軸にして進んでいく。経験したい、とにかく経験がしたいのだ。

友情を経験したい。
愛情を経験したい。
喜怒哀楽を経験したい。

しかし絶対に一回しか経験できないことがこの世には存在してしまう。それは「死ぬ」ことだ。死ぬことは絶対に一回しか経験できない。感情はたくさんのパターンを経験することができる。友情も、愛情もいくつかのパターンがあるからそれだって簡単に経験できる。家族愛は結婚を何度もすればいくつか経験することが可能だろう。

しかし死ぬことはできない。一回死んでしまえばやり直しはきかない。もちろん、未遂で繰り返せば何度も経験できるのかもしれない。しかし、未遂では意味がない。それでは自殺未遂にすぎない。それに、他殺は経験できないじゃないか。どうしたらいいのか考えたけどやり方がわからない。自殺未遂なら何度もした。でもそれでは足らない。痛いし辛いのはわかるけれど、死ぬ瞬間がわからない。理解できない。経験ができない。

これは最早生きるための経験ではない。いつからか私の経験は知識欲へと変換されていたのだろう。知りたい、知りたくてたまらない。どうしたら何度でも死ぬことができるのだろうか。

死にたい、死にたい、死にたい、死にたい!
死を経験したら次は何を知ればいいのだろうか。

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銀の部屋で面接を。

オリジナル作品◆SS

<Question>

「とてつもない不安が心を覆っていくような、そんな不安感がいつでも付きまとうんです。でも別に、それは気分が沈んでいる時に限らないんです。どんなに幸せな時でも、どんなに浮かれているときでも、
当たり前のような日常すべてから自分の死が予想できる。」
「たとえば夜道を歩いている時は後ろから通り魔に刺殺されるんじゃないかとか、自転車の鍵を差している前かがみの状態から首を絞められるんじゃないかとか、マフラーを巻いていればこれを引っ張られてしまうんじゃないかとか、大きなトラックが停車していれば連れ込まれてバラバラにされるんじゃないかとか…」
「別段殺されるほど人に恨まれているような経験やそういうことをされるほど自分が悪人だと言う自覚もないですし
前科ももちろんありません」
「でもいつ、この瞬間、私は死んでもいいって思うんですよ」
「いつ人の殺意が私に向けられるかわからない。人生ってそんなもんです。私がどんなに計算したところでいつだって誤差が生まれてしまう。殺意は私がどんなに善人として生きていたとしても殺意は否応なしに私を視界に入れることだってあるんです。」
「でもそれっておかしいことですか?いつ人から殺されるかとびくびくして生きるのは普通じゃないんですか?私たちは幸福にも国家と言う大きな存在から直接的に殺意を向けられることは少ないです。
でもそうやって命を脅かされている同い年の少年少女はたくさん地球の裏側に存在している。彼らは自らを殺意からどうやって守るか考えながら一分一秒を過ごしている。」
「なら私たちだってたかが個人から向けられる殺意くらい想定して生きていかなきゃいけないと思いませんか?
まぁ、規模が小さい分個人の殺意は想定ができないということもありますけれど。」
「今私が車に轢かれるはずがない。電車が転倒するはずがない。飛行機がハイジャックされることなんてない。
ストーカーに刺されるはずがない。そんな風に呑気に考えている人たちのほうが私には理解できません」
「でも、それでいくなら私は自分の身の守り方を考えなければいけないんですが――そういう殺害妄想?
とでも言えばいいんでしょうか。それはあくまでも自分がこの瞬間殺されるかもしれない。
そこで終わりなんですよね。身の守り方なんて考えていない。後ろを向いたら刃物が目先にあるかもしれない。そう思いながら私は今日も振り向いて誰もいないその場面に……」
「……安心、するんでしょうかね。それとも、がっかりするんでしょうかね。」

「私のこれは一体なんでしょうか、教えてください」

<Answer>

「ナルシズムにも似ていますね」
「殺意が向けられるなんて確率何パーセントでしょう?
きっと惑星が地球に落ちる確率よりも低いんじゃないですか?この国の人口を考えてみたら途方もないことがわかるでしょう。しかし殺意なんて確率論で語れるほどしっかりと理論づけられているものでもないんですがね。だから貴方がそうして考えるのもわからなくもない。事実電車のホームで後ろから押されている人が毎朝何人いるかなんて考えたくもないくらい多いでしょうからね。」
「殺意を向けられて普通とは違う死に方がしたい。そんな感情なんじゃないですかね、それは。
自分が自分の人生の主人公。それは誰にも否定できない事実ですが、貴方はストーリーテラーにでもなったつもりですか。貴方自身の人生をプロデュースでもしたいんですか。だから普通の死に方じゃあ納得できないんじゃないですか?」
「いつか訪れる衰弱や、病による死は確かに一般的な死に方です。わが国では自殺率も高く、言い方は悪いですがある種メジャーな死に方だとも言えるでしょう。だから貴方はきっとそういう死に方を意地でもしたくないんじゃありませんか?
もしくは殺意という感情が愛情や友情より最も向けられたいものだと思っているのか。確かに、この感情を向けられる人は少ない。マイナーであると言えるでしょう。」
「貴方は貴女の人生の主人公であり、貴方の人生のストーリーテラー。
平凡な人生で終わりたいと思えないんじゃないですか?だからそうしていつでも自分が殺意を向けられることを空想している。殺害妄想、それはきっと貴女が普通とは違うのだと信じたいが故に起こってくることじゃないんでしょうかね。」
「ナルシズム、それで片付けられる話です。」
「ああ、でも、希死念慮かもしれませんね。一連の流れからして。」
「貴方は若いうちに、ドラマティックな死に方をしたいと思っている。他人から殺意を向けられたいと思っている。
殺意性愛とも言えましょうか。貴方は貴女の存在を誰かに殺してほしいんです。ばかげている。
本当に、馬鹿げているね」

「さあ、はやいとこ終結としましょうか」

<Integration>

殺意を受けて死ぬのは難しいらしい。自分からの殺意でも他者からの殺意としてカウントされるだろうか?
いいや、されないだろう。

彼女は結局自殺してしまったのだ。
平凡な死に方、ending2――なんてゲームじゃないんだけれどね。

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▽ゆうしゃ と まおう

オリジナル作品◆SS

魔王として生まれてきたわけじゃなかった。
元々は人間だったけれども今はこうして人類の敵として存在している。
人類を助けるべく温室育ちで生きてきた勇者とこうして顔を合わせているのだ。

彼はきっと生まれてからずっと勇者だった。勇者でない時なんてなかった。彼は選ばれるべくして選ばれてここにやってきたのだ。それは彼の意思とは違うのだろうけれど、彼はそれが自分の意思だと信じて疑わないのだ。だからコイツを責めるつもりは全くとしてなかった。はやく勇者として惨めな俺を殺してくれとそんな気分でいっぱいだった。
もう俺は人間じゃあない。姿も心も醜悪な魔王だ。悪に染まりきって自分の思考さえ奪われてしまう前に彼には人間の俺を救ってほしかった。けれど勇者は馬鹿みたいに俺のことを説得しにきやがったのだ。

「お前はもとは人間だと聞いた、どうしてこんな非人道的なことができる」
そんなこと言ったって俺はモンスターの姿をしているんだぞ。
話が通じるとでも思っているのか。

「誰のことも信じたことがないのかお前は!」
信じてきたさ、信じてきたよ。それでも何度も裏切られた。
傷つくのが怖いから人を信じなくなった。それだけの話だろ?
何度も心を串刺しにされてそれでも盲目的に信じろってのか?

「人間として生きていけなかったのはお前が弱かったからだ」
弱かったらなんだ?俺が悪いのか?
生まれてきただけで何もかも違うようなやつにどうして説教されなきゃいけない。

「俺は今まで苦しんでいる人々を見てきた」
悪魔が苦しんでいないとでも思ったか。
俺だけじゃなくてあいつらだって元々人間なんだぜ。

「私は彼らを護らなくてはいけない」
じゃあ俺たちのことは殺してもいいって言うのか?
俺の声を聞こうともしないでそうやって自分の正義を押し付けるんだ。

人間なんて誰だってそうだった。
何度信じても何度も裏切った。身も心もボロボロになって信じられるのはもう自分だけだった。
他人のためになんて、誰かのためになんて、そんなことのために自分の身を費やすのが馬鹿馬鹿しいことだと気付いた。
自分で自分の身を護ってなにが悪い?俺だって何かを護って生きてきたんだ。
それをどうしてこんな生きているだけで歩いているだけで絶対的に人から信頼されるようなやつに否定されなきゃいけないんだ?生きているだけで人は不平等だ。誰だってこんな勇者になれるはずがない。俺のようになる可能性のほうが高いんだ。どう考えたって俺が多数派でこいつは少数派なはずなのに俺の正義が通らないのはどうしてだ?
結局みんなハッピーエンドが好きってか、そうかいそうかい。
そうまでしてハッピーエンドを望むなら俺はそれの前に立ちはだからなくてはいけない。俺は俺のために生きている。誰かのためになんていうようなそんな世界はクソ喰らえだ。誰だって一人で生きていく。そうするべきだし、それこそが正しいあり方だと本気で信じられる。人を信じよう?人と手を取り合って仲良く生きよう?

馬鹿馬鹿しい!
信頼して裏切られてもへらへら笑っていましょうなんてことを推奨するこいつのほうがどうしようもない怪物じゃないか!

そうやって俺の醜い姿のかぎづめが――勇者を襲う。
これが正解だ。俺はこうするべきなんだ。
俺じゃなくて、こいつや世界の在り方こそが最も醜いのだといつか誰かが気づいてくれるだろうか。
きっと、気づいてくれないんだろう。ああ、これだから人は信じられないんだ。
仮初のハッピーエンドに浸かっていやがれ。そうやってみんな死んじまえばいいんだ!


▽こうして せかい に へいわが おとずれた!

▽ゆうしゃ は みんなに あいされ しあわせに くらしましたとさ

▽おしまい おしまい 。

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生き方を間違えた

オリジナル作品◆SS

ゆめ ってなんだったっけ。
いつまで追いかければいいんだっけ。

しあわせ ってなんだっけ。
いつまで追いかければいいんだっけ。

あい ってなんだっけ。
いつまで追いかければいいんだっけ。

走れなくなったら、追いかけられなくなったら、死ぬべきなのかな。
ゆめって、しあわせって、あいって、本当に追いかけなきゃいけないのかな。

どうするのが正解?模範解答をください。
模範解答を求められて生きることを要求してきたじゃない。
周りの型に嵌まって綺麗に前ならえしろって言ってきたじゃない。
それを今更あなたの幸せを求めなさいなんて戯言言わないで。

一般的なそれを、
幸せと言うんでしょう、夢と言うんでしょう、愛と言うんでしょう
じゃあ一般的なそれを手に入れた私は、今の私は幸せなんでしょうか

わたしはしあわせなつもりですよ?

でも周りはそうやって見てはくれない
私を見ては心配そうな声をかける、そんなこと思ってもないくせに
わたしは幸せでしょ?だってそうであるべき条件を満たしているでしょ?

なのにどうしてそんなにかわいそうなものを見るような目でわたしを見るのよ

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這入者

オリジナル作品◆SS

私の居場所といえるものはこの百足のような体躯の彼の屋敷の中であったのだけれども、彼は私に何かを強要してくるようなことは一切なかった。私がどんなに睨みつけても小さく微笑むだけ。こっちのペースが乱れてきそうになる。「見初めた」だとか「愛している」だとかそんな言葉を初対面で贈られているからと言って警戒心を解くほど私も盲目ではない。むしろこれは監禁に近い。私がしたいことは大体させてくれるし、私が屋敷を飛び出しても無理に連れ戻したりしない(ただし、無断外泊はさせてもらえない。そのまえに迎えが来るからだ)。
だけど私は不可視なのだ。あの屋敷にいる彼に仕える従者と、彼にしか私の存在は認識されない。世界に監禁されているような気分にさせられる。部屋だって私が嫌がるからと一つ大きな場所を与えられているし、まるでお妃みたいな扱いである。…いや、彼からすれば確かに私は妻らしいのだけれども私自身は認めていないので複雑な気分だ。こんこん、と小さめにならされるノックに私は反応する。私の部屋といっても彼は用があれば私からの返事を待たずにドアを開ける。それにもっと聞こえやすいように大きなノック音だ。しかしこれだけ小さい音ならば彼ではない。私は「どうぞ」と返事をした。

「エラー様、朝食の準備ができました。」
「…ありがとう、持ってきてもらってもいい?」
「しかしエラー様、不躾なお願いではありますがそろそろ旦那様とご一緒に食事をおとりになりませんか?旦那様や私たち種族のことを理解するのは難しいかと思いますが、旦那様はエラー様のことを本当に好いておられるのです。
私共も心配になっておりまして、」

そうやって丁寧な口調で私を敬うのはこの屋敷の使用人――と言っても蟻なので働き蟻というのが正しいかもしれない。蟻と言ってもさすがに見ることができるくらいの大きさにはなっている。しかし蟻は蟻なので足元には注意しなければいけない。百足があれだけ大きいのだから蟻だって大きくなっていたっていいだろうという私自身の順応力の高さには驚くところである。

「ううん…あの人私のこと嫁とかいう割には放任主義だし、ちょっとよくわからないのだけれど」
「旦那様はお優しい方ですから、ご心配なさらないでください」

使用人の彼は私がこの屋敷に来てからずっと私の身の回りの世話をしてくれている。そんな彼が私に頼みごとをしているのだから、私は重い腰を上げざるを得なかった。

「わかった、じゃあ食事は一緒に取らせてもらうわね」
「!ありがとうございます!ではお着替えが終わりました頃にお迎えに参ります!」

屋敷の中ではほとんど自分の部屋にしかいないのだけれども一通り見て回ったから食堂の場所くらいわかるのに心配性な使用人である。思わず口から笑いが零れてしまった。私の部屋のクローゼットの中には踊り子用の衣装がいくつかと生前来ていたような簡素な服が数着おいてあった。これですべてドレスなんて用意されていたら着るのも億劫だっただろうから有難い。ただの村娘のような恰好が一番楽なのだ。しかし一応彼は王様らしいので、謁見するのにこんな恰好でいいのだろうか、なんて考えが一瞬頭を過ぎるがそんなこと私が気にすることでもないだろうと簡素な服に袖を通した。

連れられて食堂に向かうと彼はもうすでに座っていた。八つの目をゆっくりと音のするほうへと動かし、私の姿をその八つの瞳に捉える。一人から見られているとは思えない圧力だ。

「…どういった風の吹き回しだ?今まで自室から出てこなかっただろう」
「そういう気分になっただけよ。」
「ふん、そうか、気分か。ならば良い。俺様は嫁の顔を見ながら朝を迎えられて嬉しい」

そういって目を細めた彼は確かに王様のような風格がある。虫とはいえ王様なのだとやはり実感させられる。大きな食堂のテーブルで彼の前に私が座る。手が伸びる距離ではないけれども足元に何かがこつん、と当たる。そろりと下を覗き込んでみればそれは彼の尻尾、つまり百足の部分だった。
これ、虫嫌いの女の子だったら失神してそうだな、なんて呑気に構えて私はそれをゆっくりと素足で踏んでみる。最初は指をそっと押しつけて、だんだんとおろしていく。指をゆっくりと上から下へと、なぞる。デコボコした場所に爪が引っかかりそうだと感じた。ぺたん、と足が光沢のあるその甲殻につききったところで興味本位に体重をかけてみる。その途端目の前の彼はがたんっ、と立ち上がった。八つの目が一気に私に鋭い目を向ける。私はそんな様子を見て普通だったら気分を害しただろうかと考えてもいいのに、ああ、こんな末端までしっかり神経が通っているんだななんて考えていた。こういうところが世間の女の子とズレているところなのだろうけれども。

「…確かにお前のところまで尾がいってしまうのは仕方ないが、なにぶん折りたためるような代物ではない。そうやって雑に扱うのはやめろ」
「すごいのね、神経通っていて。痛いの?」
「~っ!エラー!」

もう一度そこに力こめると彼は私に怒鳴りつける。突然のことだったのでびく、と肩を震わせた。私を生き返らせてからずっと高慢な態度をとって私に優しくしかしてこなかった彼がはじめて私に怒鳴り声をあげた。八つの目を持つ巨大な化け物。そんな彼に怒鳴られたのだ。しかし私の中に芽生えたのは怯えという感情ではなく、してやったりという勝ち誇った感情だった。

「はじめて私のこと、名前で呼んだのね。そうやって顔を背けるなんて王様とは思えないわ」
「…とんだじゃじゃ馬だな、お前は」
「そう?貴方も可愛らしいところあるのね」
「そんなところも愛しいがな」

この人と会話するのは難しいんだろう、と思う。思ったことをすべて口にするのかもしれない。彼は本当に私のことを愛しているのだろう。そうじゃなかったらこんなに会話が続かずに毎回私のことを褒めちぎる意味が分からない。たまに尻尾を踏みながら食事をとると彼がだいぶ嫌そうにこちらを見るのが少しだけ楽しかった。そんなに悪い人でもないのかもしれない。嫁とか夫婦とかそういうのはわからないけれども食事くらいは一緒にとってもいいかもしれない。どうせ私は彼以外に見えないのだから。



「おはようございます」
そんな風に今日も使用人によって私は起こされた。今日は少しだけ気分がいい。ぐっ、と伸びをして私は彼に挨拶する。
「おはよう、今日も元気?」
「…ええ、と…すみませんエラー様。私は貴女の知っている彼とは別人です。見分けがつかないのは当たり前のことですので…」
「え?」

彼は私ができるだけたくさんの使用人と話さないように私の使用人は一人(一匹?)にしていたはずだ。だから打ち明けやすくて私としては楽だったのにどうして今になって変わってしまったのだろう。私は疑問に感じたので彼に声をかけることにした。彼はどことなく私に対して怯えているようだった。

「じゃあ今まで私の面倒を見てくれていた彼はどこにいったの?」
「いえ、それが…その…」
「…言えないようなことなの?」
「申し訳ありません、」

私はどうしてこの使用人からこんなにびくびくした態度を取られなければいけないのだろうか。私は知らずのうちに彼に何かしてしまっただろうか。使用人たちの見分けがつかない私にはそれがあり得た。とにかく彼が私に怯えてしまっている以上、話を聞けそうもなかったので私は食堂へと向かった。ここの主人であり、使用人たちを総括している彼ならばきっとわかるだろうし、私からの質問には答えてくれるだろう。
彼はいつも通り食堂で食事をとっていた。私が寝間着のまま食堂に来たからか、連日こうして彼の前に姿を現したからか、理由はわからないけれども彼はゆるり、と余裕を讃えた笑みを浮かべた。

「目が覚めたか、我が花嫁。清々しい朝だな。」
「貴方に聞きたいことがあるの」
「なんでも聞くといい、お前からの質問ならなんでも答えてやろう」
「私の使用人はどうして変わったの?」

彼は眉ひとつ動かさなかった。特にやましいことがないからだろうか。私の考えすぎだったのだろうか?それで笑い話で終わるなら私としてもそれが喜ばしい。彼は食事を取りながら世間話のように質問に答える。

「アイツは俺様の花嫁に近づきすぎた。アイツが頼んだからお前は昨日ここで食事を取った、そうだろう?」
「……ええ、そうよ」
「俺様はお前が、お前の意思で俺様に会いに来るまで待っていようと思っていた。無理強いをするつもりはなかった。だというのにアイツは仕事を超えてお前に声をかけた。図々しくも俺様の花嫁に、だ。それでお前の心が動いたのも気に食わん。
だから、アイツは昨日殺してやったよ。」
「…は?」
「何を驚く?俺様の花嫁の心を動かしたんだ、そんなこと重罪に決まっているだろう」

どうして淡々と彼はこんな話を私にするんだろう。私を脅かそうとでもしているのだろうか。しかし、私は彼が私に嘘をつかないことだけは知っていた。無駄に誠実なのだ、彼は。心を痛めているような様子もなく、彼は当たり前のことをしたと私に言う。それが常識なのだと言う。だから新しい使用人の彼は私と喋ることが恐ろしかったのだ。私と喋って、私から信頼と言う好意を受け取った瞬間に彼らの主人の怒りを買うのだから。
怒り?これは怒りによる行為なのだろうか。怒りと言うよりは法律のようだ、と思う。彼の中では私から使用人が好意を受け取ることは使用人の犯罪になるのだ。だから殺す。これは嫉妬なんて言う可愛らしいものでもなければ、独占欲と言う恐ろしいものでもなく、ただただ常識の範疇なのだと思うとその事実が何よりもおぞましかった。

「…どうしてそんなひどいこと、」
「ひどい?そうか、ひどいことなのか。それはすまないことをしたな」
「それでも、次同じことがあってもこうするんでしょう?」
「当然のことだな」

とんでもない男だ、と思う。こんなの理解できるほうがおかしい。私でもさすがにこれは受け入れられない。彼の外見は特に気にならないけれども流れている血が人間とは違っている。そして、歩み寄ろうという意志すらない。

「あとで、食事は部屋に運んでもらって。それからもう使用人は要らないわ。必要だと思うなら夫である貴方が私のことを起こしに来てよ」
「はじめて俺様のことを夫などと呼んだな、」
「…意趣返しのつもりなのに嬉しそうにするんじゃないわよ、」

そうやって小さく怒りのこもった声を吐き捨てた。きっとこの意味すら彼はわかっていないのだろう。王様である彼が使用人のようなことを私にするかどうかが気になってそう言っただけなのに。そうやって心の底から嬉しいみたいな顔をされたらこっちとしてもどうしていいのかわからなくなる。
それがまたどうしようもなく腹が立つのだ。

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